フィトンチッド応用講座 (1)

フィトンチッドの抗菌作用


 世の中はまさに『抗菌ブーム』と言ったら少し大袈裟でしょうか?
 最近では『潔癖症』だとか『清潔症候群』などの言葉をよく耳にしますね。他人が
使ったものに強い拒否反応を示したり、汚れに対して徹底的な嫌悪感を抱いたり
する傾向は強まるばかりのようです。さらに、アレルギー、食中毒、感染症などの
問題がこうした傾向に拍車をかけているのが実情ではないでしょうか。
 フィトンチッドには、植物自身を護る武器として、抗菌作用があります。
 ここでは『抗菌』について考えながら、フィトンチッドが果たす役割について見て
みましょう。





殺菌、滅菌、抗菌、除菌あれこれ


 これらの言葉は、菌に対して抵抗力があるという点では同義語だと言えるでしょう。
 『殺菌』や『滅菌』はもともと医療現場での言葉、すなわち医学用語に由来していま
す。殺菌剤とか滅菌具といった具合です。これら医療に用いられるものは『薬事法
(公衆衛生の向上のために、薬局、医薬品、医療具などの基準、検定、取扱を規定
する法律です)』の守備範囲ですから、菌に対して有効性があるものでも『薬事法』の
規定に無ければ、殺菌や滅菌という表現は不適当な場合があります。したがって、
『抗菌』や『除菌』という言葉が使われるようになったようです。無用な誤解を避ける
ために、『抗菌』と言ったほうが無難かもしれません。


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そもそも『菌』にはどんな種類があるのでしょう?


 微生物の一種が『菌』なのですが、バイ菌を連想するからなのでしょうか、どうも
悪者のイメージがつきまとってしまうようです。しかし微生物の働きは大変重要です。
 たとえば、有機物をせっせと分解することで、植物に貴重な栄養分を提供したり、
他の生物が消化できないゴミ(有機物)を掃除してくれたりするからです。
 食物連鎖を土台で支える縁の下の力持ちといったところでしょうか。
 微生物をわかりやすく大別してしまうと、『バクテリア』と『カビ』の2種類になります。
バクテリアのことは『細菌』、カビのことは『真菌』と呼ぶこともあります。またバクテリ
アでもカビでもない微生物に『放射状菌』と呼ばれるものがあり、『ストレプトマイシン』
を始めとした、さまざまな抗生物質を作りだすことが知られています。
 さて、細菌には乳酸菌や納豆菌など、わたしたちが口にするような非病原菌もあり
ます。カビにはペニシリンを作る青カビ、食用キノコ、酒に使う酵母など有用なものが
あります。
 したがって、本来的には、わたしたちのからだにマイナスに作用する『菌』、つまり
病原性を持った微生物が抗菌の対象と言えるでしょう。
 代表的なものとしては、化膿を起こす『ブドウ球菌』、喉の炎症などを引き起こす
『緑膿菌』、病原性を持ったものが食中毒を起こす『大腸菌』が挙げられるでしょう。
そして抗菌効果を調べる場合には、これらの『菌』を用いることが一般的のようです。


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抗菌の方法は『無機』と『有機』の2通り


 抗菌剤は、大別すると『無機系抗菌剤』と『有機系抗菌剤』とに分かれます。
 無機系抗菌剤には『銀』、『銅』などの金属材料が用いられます。いっぽうの有機系
抗菌剤には、さまざまな有機化合物が使われています。よく知られているものに、
塩素やヨードの化合物、フェノール、アルコール、ホルマリン、4級アンモニウムなど
があります。これらは化学合成によって得られます。また、フィトンチッドのような天然
有機物の成分も利用されます。すなわち、有機系はさらに合成品と天然物とに分けら
れるわけです。
 さて、それぞれの特長を一言で比較するのは大変に難しいことなのですが、一般的
はに次のようにまとめられると思います。

種 類
効き目
コスト
耐 熱
菌に対する作用
無機系抗菌剤
速 い
安 い
強 い
接触した菌に有効
有機系抗菌剤
遅 い
高 い
弱 い
浮遊菌にも有効


 なお、有機系抗菌剤のなかで、化学合成品と天然有機物とを比較すると、これも
一般的には次のような違いが指摘できると思います。

種 類
コスト
組 成
成 分
製造面の特徴
化学合成品
安 い
均 一
一 定
大量に生産できる
天然有機物
高 い
不均一
不 定
気象条件に左右される


 このように見ると、化学合成品のほうが格段に勝ると思われるかもしれません。
しかし、たとえば植物精油などを利用した場合には副作用や残留毒性が少ないので
はないか、という指摘もあります。また、さまざまな成分が精油に含まれているために
それらの相乗効果が期待できることや、何にもまして利用する際の安心感は、他に
は見られない特性と言えるでしょう。
 最近では、植物に含まれる有効な成分を、培養組織に作らせる研究が進められて
おり、熱い注目を浴びています。


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無機系抗菌のメカニズム


 ところで銀や銅などの金属が抗菌作用を持つと聞いても、ぴんとこないかもしれま
せんね。銀や銅は『イオン』を溶出しやすい性質を持っているのです。
 そもそも『銀イオン』や『銅イオン』は、酸素と乖離して生じるわけですから、不安定
な状態にあります。そこで安定するために菌の酸素と結びつこうとして、菌の細胞の
菌体膜に付着します。菌は分裂して増殖しますから、菌体膜に付着されてしまうと
分裂できず、タンパク合成の阻害を起こして死滅すると考えられます。これが無機系
抗菌の仕組みです。
 無機系抗菌剤は、合成樹脂に練り込んだり、ステンレス鋼と混ぜ合わせたりして用
いられます。また塗料に混ぜ合わせて用いる方法も多いようです。


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抗菌剤の安全性


 無機、有機の区別にかかわらず、抗菌剤として用いられる場合にはさまざまな試験
が行われます。
 主なものとして『急性毒性試験』、『変異原性試験』、『皮膚一次刺激性試験』などが
挙げられます。人体への影響を調べるわけです。
 しかしこれだけで良しとせずに、用いる際には念には念を入れた慎重さが必要だと
言えるでしょう。人体ばかりでなく環境に対しても安全なのかも考えるべき時代です。
また、たとえば無機系抗菌剤が『金属アレルギー』などの原因にならないか、といった
問題にも十分に配慮するべきでしょう。
 さらに、ここでは抗菌を広い意味で捉えて、わたしたちが病気の際に服用する
『抗生物質』について触れてみましょう。その強い効能で治療に役だつ抗生物質が
問題とされる理由は、一つには『副作用』があるからです。病気が直る過程に副作用
はつきもの、と簡単には片づけられませんね。
 もう一つの問題は、抗生物質に効かない菌が出てくることです。この世界ではどん
どん世代交代が進み、いずれ人間の手に負えなくなるのではないかと心配になるほ
どです。
 『メチシリン』という抗生物質があります。このメチシリンに効かない『メチシリン耐性
黄色ブドウ球菌(MRSA)』が院内感染の原因となっていることは、ご存じの方も多い
と思います。
 今、本当の意味で安全なものが求められているのではないでしょうか。


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期待が高まるフィトンチッド


 このように抗菌について考えてみると、フィトンチッドが持つ抗菌作用を見逃す手は
ありません。熱い期待が寄せられているのも当然ですね。
 植物精油はそれぞれ何らかの抗菌作用を持つと言えますが、樹木ではヒノキ、
青森ヒバ、ユーカリなどが、香草類ではラベンダー、カミツレ、セージ、シソ、ワサビ、
カラシなどの抗菌作用がよく利用されています。
 『生活の智恵に見るフィトンチッド』の項 で見たように、植物が持つ抗菌作用は暮ら
しのなかで活用されてきました。こうした経験を科学的な裏づけで証明し、再びわたし
たちの生活に役だてることができれば、こんなに素晴らしいことはないでしょう。


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研究データに見るフィトンチッドの抗菌作用


 フィトンチッドの抗菌作用を科学的に裏づける研究例をいくつかご紹介しましょう。
 ヒノキ科樹種のメタノール抽出物を用いて、緑膿菌、大腸菌、黄色ブドウ状球菌、
枯草菌への抗菌作用を調べた結果、ヒノキ材、カイヅカイブキ葉、コノデカシワ樹皮、
ヒノキアスナロ(青森ヒバ)材が黄色ブドウ状球菌、枯草菌に対して強い抗菌作用を
持つことがわかりました。
 サワラに含まれるピシフェリン酸を用いて、同じく細菌類への作用を見たところ、
黄色ブドウ状球菌に対してやはり強い抗菌作用を持つことが確認されています。
 また、針葉樹葉油を揮散状態にして、真菌類(カビ)への抗菌作用を調べると、
ネズコが黒麹カビに対して非常に強い生育阻害を示した他、ヒノキやヒノキアスナロ
が青カビ属に対して、ハイビャクシンがフザリウム属に対して、それぞれ強い生育阻
害を示したのです。
 さきほど触れたMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)に対する試験では、青森
ヒバから抽出されたヒノキチオールがMRSAの生育を完全に阻止し、耐性菌もでき
なかったことがわかりました。
 以上はほんの一例です。森林の力には、ただただ驚くばかりですね。


* 参考文献

  • ここで提供している情報は、当センター発行の小冊子『やさしいフィトンチッドの
    はなし』の第2章部分から抜粋して掲載しております。
    参考文献については、下記をご覧ください。
小冊子『やさしいフィトンチッドのはなし』の参考文献


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