フィトンチッド応用講座 (5)

感染症とフィトンチッド


 エイズや食中毒などのニュースが報道されるたびに、わたしたちは改めて
『感染』の恐ろしさを実感します。そして身の回りが意外にも危険に満ちてい
ることに気づき、震えあがってしまいます。
 フィトンチッド応用講座 (1) フィトンチッドの抗菌作用 の項で『菌』の話を
すでにしましたので、重なる部分もあるかもしれませんが、ここでは最近問題
となっている『院内感染』を取り上げてみましょう。





感染症とは?


 微生物が体内に侵入したり、あるいはあらかじめ体内に寄生している微生物が
異常に繁殖したりして、局所的もしくは全身的に傷害などを及ぼす現象が『感染症』
です。簡単に言えば、菌に感染して病気になることですね。
 フィトンチッド応用講座 (1) フィトンチッドの抗菌作用 で説明したように、微生物に
は発病させる毒力を持つ病原微生物と非病原性との2種類があります。また、感染し
ても必ず発病するとは限りません。これは『無症状感染』と呼ばれます。
 さらに、伝播(でんぱ)する病原微生物を持ちながら発病しない人は『健康保菌者』
と言われます。
 病原微生物に感染し、発病にいたる経路はさまざまです。感染源の伝播される形
には、経口感染(消化器から)、飛沫感染(呼吸器から)、経皮感染、接触感染など
があります。感染経路と主な疾病を簡単にまとめると次のようになります。

感染経路
主な疾病

飲食物から

コレラ、腸チフス、サルモネラ症、細菌性赤痢

昆虫などから

黄熱、マラリア、睡眠病、回帰熱、ペスト、発疹熱

動物、鳥類から

狂犬病、ラッサ熱、マールブルグ病、炭疽、鼻疽

有害動物から

毒蛇咬症、サソリ、ハチ、クラゲ、などによる傷害

水、土、人から

マンソン住血吸虫症、破傷風、性病、レジオネラ症

空気から

インフルエンザ、喉頭炎、百日咳、結核、ジフテリア



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院内感染とは?


 病気にかかると病院へ行きます。症状によっては入院する場合もあります。この
入院患者が、『病院内の微生物』によって感染症にかかってしまうことを『院内感染』
と呼びます。
 院内感染が起こる理由は、一般的には次の3点が挙げられます。
 まず、病気によって、あるいは抗生物質の投与によって感染抵抗力が弱い人が集
まっていることです。次に、感染症にかかった人(病人)がさまざまな病原微生物を持
ち込むことです。そして最後に、健康保菌者である医療関係者(医師、看護婦、付添
いの人)が、微生物を持つ人と感染抵抗力が弱い人ととの間を頻繁に行き交って、
『微生物の橋渡し役』になっていることです。
 病院が存在する以上、必ずついてまわる厄介で深刻な問題なのです。
 院内感染と聞くとMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)が頭に浮かび、抗生物質
の乱用を連想しがちのようです。もちろんこれも重要な要因です。
 しかし院内感染が多発する背景には、医療技術の飛躍的な進歩により平均寿命が
伸びたことや重篤な患者が救われるようになったことが挙げられます。
 感染抵抗力が弱い人が昔に比べて飛躍的に増加したと言えましょう。


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『日和見主義』の菌がいる?


 どちらが優勢になるかをじっとうかがっていて、自分がどちらにつくかをなかなか
決めないことを『日和見主義』と言います。あまり褒め言葉には使いませんね。
ところが『菌』にはこの日和見的な輩がたくさんいるのです。
 これは普通の健康な人なら感染症にならない、ふだんは無害の菌なのです。
これらの菌は『日和見感染起病菌』と呼ばれます。そして病院内の感染抵抗力が
弱った人を襲うのです。つまり『日和見感染症』です。
 たとえば大腸菌は病原性のものを除けば、平素は無害です。わたしたちの大腸に
は2兆個も住みついていると言われています。ところが感染抵抗力が低下している
人には重篤な感染症を引き起こすのです。
 したがって、避けられない感染症ではありますが、ちょっとした注意をすれば防ぐこ
とも可能だと言えるでしょう。


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院内感染への処方箋


 感染症への対策は院内感染に限らず、感染源をなくすこと、感染者を隔離するこ
と、感染経路を遮断すること、の3点に集約できると言えましょう。 病気になった人
が集まるのが病院ですから、感染源をなくしたり、感染者を院外に出すことは非常に
難しいことです。したがって、感染経路の遮断が大変重要になってきます。
 感染抵抗力が低下した患者のし尿は、『日和見感染起病菌』が最も増殖する場所
だと言えます。し尿が取られた病室、蓄尿ビン置場、し尿が処理される処理場など
は、日和見感染起病菌の宝庫になっている可能性があります。また病院内のトイレ
の、手洗い用水道の蛇口、水洗バルブ、出入口のノブなども同様です。これらは常
に念入りに消毒する必要があります。
 病院に限りませんが、冷房空調システムの冷却塔にレジオネラ菌が検出されて
問題になっています。健康な人ならば感染することはないようですが、抵抗力が低下
した人が肺炎になる例が多いようです。典型的な日和見感染と言えるでしょう。
 対策としては、殺菌装置の設置や空調管理が必要でしょう。
 MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)は『鼻』が主な感染源と考えられます。
健康保菌者(医師、看護婦、付添いの人)が鼻腔内にMRSAを保菌している状態で
くしゃみや咳をすると、かなり遠方まで拡散します。これを防ぐには、健康保菌者が
手指の消毒をまめに行うことやマスクを着用することが求められるでしょう。


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院内感染とフィトンチッド


 青森ヒバから抽出されたヒノキチオールが、MRSAの生育を完全に阻止し、耐性
菌もできなかったことは、フィトンチッド応用講座 (1) フィトンチッドの抗菌作用
すでに話しました。院内感染の重要な原因となるMRSAにフィトンチッドが有効であ
れば、院内感染を防ぐことに役だちます。フィトンチッドが果たす役割はまだあると
思います。ここまで感染について見てきて気がつくのは、空気を感染経路とすること
が多いことです。病院内の空気を森林の空気に変える工夫をして、フィトンチッドの
働きを利用すれば、病院内環境の改善に役だつのではないでしょうか?


* 参考文献

  • ここで提供している情報は、当センター発行の小冊子『やさしいフィトンチッドの
    はなし』の第3章部分から抜粋して掲載しております。
    参考文献については、下記をご覧ください。
小冊子『やさしいフィトンチッドのはなし』の参考文献


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