生態系の鍵を握るフィトンチッド
フィトンチッドってなんだろう?の項で、フィトンチッドのさまざまな働きについて説明 しました。フィトンチッドは、他の植物への生長阻害作用を始め、昆虫や動物に葉や 幹を食べられないための摂食阻害作用、昆虫や微生物を忌避、誘引したり、病害菌 に感染しないように殺虫、殺菌を行ったり、と実に多彩です。 また、森林のなかでは木どうしが『おしゃべり』をしていることも紹介しました。木どう しは警告物質を発散することでお互いに会話をしており、その共通語がフィトンチッド なのです。 フィトンチッドは樹木たちにとって自己防衛のための秘密兵器なのですが、それば かりではありません。生態系の鍵を握る重要な役割を果たしているのです。 多種多様な生物集団によって構成される生態系のなかでは、激しい生存競争の他 にも、相互にさまざまな交流が頻繁に行われています。そして、その際の交流手段こ そが、アレロパシー(他感作用)物質としてのフィトンチッドと考えられるからです。 植物は、光合成によって無機物から有機物を作りだす唯一の『生産者』ですから、 『生物量ピラミッド』の底辺に位置し、『食物連鎖』の出発点となっています。 植物は生物界における重要な存在です。人間を含めた『消費者』たちは、植物なし で生存することは不可能なのです。したがって『生物のつりあい』は、植物が作りだす 有機物(フィトンチッドを含めた)によってコントロールされていると言えるでしょう。 以上をまとめてみると次のようになります。
上の図は、植物を中心に、生態系における『他感物質』の相互作用をまとめてある のですが、微生物が作りだす『病原菌毒素』や微生物どうしに作用する『抗生物質』も フィトンチッドの一種と考えてよいのか、という疑問を持たれるかもしれません。 フィトンチッドを他感物質として位置づけるならば、当然そのように拡大して考える べきでしょう。しかし現実的には、『植物由来の化学成分』と限定して把握しておいた ほうが、無用な混乱も避けられ、現在のところ妥当ではないかと思います。 ちなみに蛇足ながら、ここで言う『アレロパシー(他感作用)』とは、生物が作りだす 化学物質による相互作用のことです。逆に言えば、化学物質が関与しない相互作用 は、アレロパシーの範疇には含まれません。
* 用語解説
* 参考文献