(連載11) 海の森林のはなし その1

逆瀬川 三有生



 新春のテレビに映し出される寒中水泳大会、ゴールデンウィークのニュースで放送
される沖縄の海開き。人が海とふれあう機会は数あれど、本格的な海のシーズン
は、やはり7月とするのが一般的なようです。

 海に出かけると、海岸の手前に広がるのが、海岸林と呼ばれる人工の森林です。
車を止めた駐車場や最寄りのバス停などから、浜辺にたどり着く前に、鬱蒼とした
クロマツの林を通り抜けたことを覚えている方も多いことでしょう。

 海岸、特に外海に面した海岸では、風が強く吹き、冬の日本海沿岸における北西
季節風は風速25m/秒以上に達することもあります。一般に風速10m/秒以上の風を
暴風とよぶことを考えていただければ、この風がどのくらい強いのかが想像できる
ことと思います。

 強い風は、それ自体が風害として、人間の生活を脅かす他に、海や砂浜から、
海水や砂をまきあげ、まきあげられた砂や海水は内陸部に塩害、飛砂害を及ぼし
ます。

 そこで、人々は、これらの害から農地や家屋等の財産を守るために、古くから海岸
林の造成を行ってきました。

 防風は海岸林の造成によってもたらされる第一義の効果です。

 風は、木が植わっているとそこから木の高さの5〜10倍の距離まで、風速を半減さ
せるといわれています。そのため、木の高さの5〜10倍の間隔で海岸林を造成する
ことにより、効果的な防風効果を得ることができると言われています。

 風を防ぐことは砂を防ぐことにも繋がります。

 砂は風速4.5〜5.5m/秒で飛び始めるため、風速を抑えることで、砂の飛散を効果
的に防ぐことができます。

 さらに、茂った葉は潮を捕まえます。

 高さ1m以上で幅70m以上のクロマツの海岸林は、飛散する塩分の90%以上を補足
可能であるという報告や、また幅30mのクロマツの林では、葉の乾重1gあたりナトリ
ウム0.1〜0.7ppm、塩素0.1ppm〜1.1ppm程度を吸着することが報告されています。

 また、塩分の吸着の他にも、40mの幅の海岸林が存在することで、津波の高さは
減少し、80mあると半減することも報告されています。

 海岸林の造成される場所は、風が強く、巻き上げられた砂や海水にも耐えなけれ
ばならないという厳しい環境にあります。

 風を防ぐためには、枝や幹が風で折れにくく、深く根を張る深根性の樹木が適して
おり、飛砂を防ぐ防砂林には、防風林の持つ特徴に加え、枝葉が密についている
樹木が適していると言われています。

 青森県弘前市の弘前城植物園の一角にある特定用途樹見本園には、防風林、
防砂林の見本林として、クロマツとコバノポプラ、クロマツとヤマハンノキの林がそれ
ぞれ造成されていますが、その他にも、防風林には、ヒノキ、サワラ、スギ、モミ、
ツガ、カラマツ、イチョウ、ケヤキ、ニセアカシアなどが、防砂林には、ツバキ、スギ、
ケヤキ、サワラ、マサキ、サンゴジュ等が適した樹種の例として挙げられています。

 一方、防潮林には、潮風に強い海岸自生の樹木が適しており、弘前城植物園で
は、ギョリョウとギンドロが見本林として植えられている他、カシワ、ニセアカシア、
エノキ、イボタ、ハマナス、ハマゴウ等が防風林に適した樹種として挙げられてい
ます。

 また、弘前城植物園の例にはありませんが、クロマツもまた砂浜で育ち、塩分にも
強いことが知られています。

 クロマツはこのように、防風、防砂、防潮の全てを満たす特徴を持っているため、
古くから海岸林造成に用いられ、「白砂青松」という言葉ができるほど、海岸の風景と
して身近な存在でした。佐賀県の虹の松原、静岡県の三保の松原、秋田県の風の
松原といったマツの名所も海岸林として植えられた松林です。

 海岸林が、防風、防砂、防潮等の効果を発揮するためには、なるべく早く樹冠閉鎖
をさせてやる方が都合が良いため、海岸のクロマツ林では、植栽密度が1ヘクター
ル当たり1万本と高密度で植えられています。このことは、過度の枯損が生じない
限り、林分が8から10年ほどで過密になり、逆に気象災害に対して弱い林を形成する
ことになってしまうと言われています。

 海岸林を劣化させる原因として、マツノザイセンチュウによる松枯れ病が挙げられ
ますが、この被害の他にも、海岸林の林帯中央部に位置するクロマツが集団的に
数年から10年程度の期間で徐々に枯死していく減少も報告されています。枯損の
発生した土地やその周辺では、梅雨の時期に滞水現象が観察され、原因は明らか
にされていませんが、大気汚染物質が考えられないことから、林内の過湿状態が
原因ではないかと考えられています。

 クロマツ林の林の健康状態をチェックするために、クロマツと共生する菌根性
きのこを利用しようとする研究も行われています。

 菌根性きのこは、菌糸を樹木の根に貫入させる菌根合成を行い、土壌から水分や
無機養分を吸収して植物に与え、反対に糖類、アミノ酸等の供給を受ける共生を
行うきのこで、海岸のマツ林では、ショウロ、アミタケ等が知られています。

 ショウロは日当たりが良く栄養分の乏しい砂地を好み、アミタケは海岸林の薄く葉
が積もった箇所に発生しますが、クロマツ林内の「松葉かき」を怠り、林内に葉や枝
が堆積し、これらを栄養源とする落葉分解菌の発生が見られるようになると、これら
の菌根性きのこ類の発生は見られなくなります。

 マツもまた堆積物に富んだ環境では、生長は速いものの、病虫害や気象害に弱い
木になってしまいます。

 そのため、松葉かきが行われている松林にしか、これらのきのこが発生しないこと
を利用して、マツクイムシに耐性のあるマツを植えた林にショウロを共生させ、
ショウロを健全な松林の指標生物として、管理に役立てていこうとするものです。

 また、森林の規模や形状だけでなく生育状況までをも把握できる人工衛星リモート
センシングデータを用いて、海岸林の「健康状態」を把握しようとする取り組みも行わ
れています。森林の健康状態を把握することで、こちらも今後の保全に大きな役割
を果たすのではないかと期待されます。

 夏といえば海ですが、もう一つの主役のスイカも海岸林の恩恵の賜物です。

 山形大学農学部の中島勇喜教授によると、庄内砂丘でつくられるスイカは、
日本海からの強風や飛砂、塩風を、江戸時代から植え継がれてきた海岸林が
防いでいるからこその恵みであることを指摘しています。

 夏と密接に関連した海岸林。海にお出かけの際には、是非、先人達の知恵を感じ
ていただければと思います。

(参考文献)

 弘前城植物園パンフレット及びウェブサイト
 http://www.net.pref.aomori.jp/hiroryokuchi/

 玉田克志 海岸マツ林と菌根性きのこ 宮城県林業試験場ウェブサイト
 http:// www.pref.miyagi.jp/ringyos/tokusann/kaigannrinn.pdf

 嘉戸昭夫、西村正史 海岸保安林の保護管理に関する研究
 富山県林業技術センター平成12年度業務報告
 http:// www.fes.pref.toyama.jp/hokoku/h12/3-6.pdf

 西村正史、安田洋 海岸保安林の保護管理に関する研究
 富山県林業技術センター平成10年度業務報告
 http:// www.fes.pref.toyama.jp/hokoku/h10/1-8.pdf

 工藤勝輝 ・藤井壽生 ・西川肇 ・近田文弘
 人工衛星リモートセンシングを用いた海岸クロマツ林の生育評価
 日本大学生産工学部研究報告A 38巻1号
 http:// cit.nihon-u.ac.jp/kenkyu/.../houkoku_a/Vol.38No.1/houkoku_a38.1.9.pdf

 気象・森林・災害の広場 海岸林: 防風・防雪・飛砂防止
 http://www.ee.e-mansion.com/~tkubota/coast.htm

 中島勇喜 海岸林の多面的な機能とその再生をめざして
 http://www.yamagata-u.ac.jp/information/paneru/n-nakajima.pdf


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逆瀬川 三有生 (さかせがわ みゆっせ)

特定非営利活動法人 農学生命科学研究支援機構 理事 (博士農学)


Copyright (C) 2006 Miyusse SAKASEGAWA , Phyton-Cide Spread Center JAPAN

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