(連載13) 実りの秋

逆瀬川 三有生



 秋は実りの季節。多くの植物が果実をつけます。これらの果実は、鳥や動物に
とって冬に向けての貴重な食料となりますが、植物も年に一度の分布を拡げる手段
として、積極的に利用しています。今回は、動物や鳥を利用した植物の分布拡大
戦略について、ご紹介します。

 植物の種子が親植物から離れた場所に運ばれていくことを「散布」と呼び、種子、
果実といった散布される際のまとまりは「散布体」と呼ばれます。また、散布は、
散布体が運ばれる際に利用するもの(風、水、重力等)によっても区別され、動物を
利用するものは、特に「動物散布」と呼ばれています。

 動物散布は大きく3つに分けることができます。

 1つ目は、被食動物散布と呼ばれる方法です。これは、動物や鳥に栄養のある
果実を食べさせ、その中に含まれる種子を糞と共に排泄してもらうことで、種子を
散布してもらおうとする方法です。

 被食動物散布で最も重要な役割を果たしている動物は鳥です。昆虫やほ乳類など
に比べて遥かに長い移動距離を持つ鳥は、植物にはとても魅力的な種子の散布者
です。そこで、被食動物散布を行う植物の果実は、鳥に訴えかけるための様々な
特徴を備えています。

 たとえば、鳥は非常に視覚と色覚が発達した動物で、特に、赤や黒に高い関心を
示すことが知られています。一方、被食動物散布を行う植物の果実の色を見てみる
と、地域により多少の差は有るものの、多くの植物が赤や黒の実をつけることが
わかっています。また、未成熟の果実は葉と同じ緑色していますが、成熟すると赤や
黒に変わることは、鳥に食べさせたい時を知らせるサインと考えられています。

 果実自体は目立たない色をしていても、周りに赤い苞をつける、果実をつけた枝を
赤くする等、色を対比させることにより果実を目立たせる植物も知られています。
このような効果は「二色効果」と呼ばれています。

 単色の果実をつける植物にも、二色効果と同様の効果を得るための工夫を見る
ことができます。サクラやゴマキ、ヤマシグレなどは、集合した果実をつけますが、
これらの果実は成熟は時間をずらして行われていきます。そのため、集合した果実
を遠くから見ると、常に熟し具合の違いによるまだら模様ができ、二色効果と同様の
効果が得られるのです。

 色に加えて、果実の成分も鳥の好みに影響を与えているようです。鳥は、夏場に
水分が多い果実を、冬場に脂肪分の多い果実を好むことが報告されています。
そこで、南スペインに分布する62種の被食動物散布植物の果実について、季節に
よる水分、脂質、タンパク質の含有率を調べた研究によると、果実の成分は、夏に
熟すものでは水分が多く、冬に熟すものでは脂質が多いことがわかりました。この
ように植物が、鳥の需要に見合った成分の果実を提供することは、鳥と被食動物
散布植物の共進化の結果と考えられています。

 多くの被食動物散布植物は、種子を移動させることを目的として果実を食べさせ
ますが、虫害から身を守るために食べられる種子も存在しています。アフリカの
サバンナに生えるアカシアは、タンパク質の豊富な「さや」を持つ種子をつけますが、
このさやはゾウなどの草食動物の好物となっています。一方、マメゾウムシなどの
小型の甲虫もアカシアの種子を産卵場所として利用しています。マメゾウムシの
卵は、産卵されるとすぐにふ化して種子を食べ始めるので、種子は発芽することが
できません。しかし、草食動物にさやごと食べられた場合には、さや内の多くの種子
は無傷で残り、マメゾウムシの卵が産みつけられていた場合でも、胃の中の消化液
で卵が死んでしまい虫害を受けることはありません。そのため、草食動物に食べら
れた方が種子の生存率を上げることができるのです。

 一見、良いことずくめに見える被食動物散布ですが、植物にとっては種子を食べら
れてしまうかもしれないという危険をはらんだ方法でもあります。そこで、植物は、
無毒で食べられる果実と有毒な種子の組合せ、食べられないほど硬くした種子と
いった対策を編み出しました。また、鳥のように餌を丸呑みしないほ乳類を利用する
植物では、種子が口の中で噛み砕かれないように、ヌルヌルとした内果皮や種衣を
まとうことで動物の歯をすり抜ける工夫を編み出しました。

 このように、動物は食料を、植物は散布をとお互いに利益を受ける被食動物散布
ですが、そこに人間の手が入ったため、思わぬ悲劇が引き起こされてしまうことが
あります。

 キレンジャクやヒレンジャクなどのレンジャク類は、被食動物散布を担う小鳥です
が、ピラカンサの未熟果を食べて大量に突然死することがあります。ピラカンサ、
ウメ、サクラといった植物の未熟果には、熟す前に食べられないためプルナシンや
アミグダリンなどの青酸配糖体が含まれています。通常、これらの化合物は果実の
成熟とともに消失し、果実は無毒化します。しかし、庭木として植えられている園芸
品種では、自然界でかかっていた選択圧がかからなくなってしまっているため、
果皮を赤くして「成熟した」というサインを鳥に出していても、果実は無毒化していない
状態にあります。また、レンジャク類は群れで行動する鳥で、一斉に採食行動をとる
ため、毒のある実を食べた時刻、量、消化時間がほぼ同じであり、そのため、大量
死といった悲劇が起こってしまうのではないかと考えられています。

 種子を散布する2つ目の方法は、動物にくっついて運んでもらう付着動物散布
です。野山や草原を歩いていてズボンにびっしりと種子がついた経験をしたことは
ないでしょうか。

 付着動物散布を行う植物は、生息場所を通りかかった相手なら、人間でも動物
でも関係なく種子を付着させます。しかし、相手のえり好みをしないといっても、
積極的に相手を呼び込む手段も持っていないため、種子を付着させるまでには
長い時間がかかります。そのため、これらの植物は、熟しても落下しない種子や
果実と、長期間倒れない果実序や茎を備えているのが特徴です。

 付着動物散布を行う植物の散布体が付着させる仕組みには、粘液を利用したもの
とカギや刺によるものとに分けることができます。散布体を粘液で支えるには重さの
限界があること、カギや刺で付着する方がより重い散布体を支えられることから、
一般的には粘液を出すものの方が軽く小さい、カギや刺で付着する方が重く大きい
散布体となります。しかし、これらの散布体は、付着相手に何も利益をもたらさない
ため、見つかった場合には排除されてしまいます。大きな散布体は、移動先での
成長に有利ですが、それだけ付着相手に見つけられやすいという欠点を持っていま
す。実際に、付着散布体の大きさと相手に付着していられる時間の関係を比較した
実験では、大きい散布体の方がより短時間で排除されてしまうことが報告されて
います。

 付着相手を呼び込む手段を持たず、見つかった場合には排除されてしまう運命に
ある付着動物散布植物の散布体ですが、長時間、相手に気付かれなかった場合は
どうでしょう。被食動物散布では、種子の移動距離は動物の消化器官内に留まる
時間により左右されるため、せいぜい1000メートルほどに留まってしまいます。
しかし、ニュージーランドの南西950kmに存在する火山起源のマクアリー島では、
分布する35種の植物のほとんどが付着動物散布によりもたらされた種であることが
報告されています。この事実は、付着動物散布という戦略が、条件さえ整えば他の
動物散布法に比べて遥かに長距離の散布が可能な方法であることを示しています。

 3つ目の散布法は複合動物散布です。複合動物散布には、ヤドリギで見られる
ように、鳥に果実を与え、同時に粘つく種を体や嘴に付着させて移動先で取り除か
せ、散布を成し遂げる例などが報告されていますが、良く知られているのは、げっ歯
類やカケスなどの貯食性の動物や鳥による、ブナ科の堅果(ドングリ)、クルミ科の
石果、翼を持たないマツ科マツ属の大型種子などの散布例です。

 ブナ科ナラ属、ブナ科カシ属、クルミ科などの木は、秋になると多くの果実や種子を
つけて地面に落とします。野ネズミ、リスなどのげっ歯類やカケスは、これらの果実
や種子を食料として利用しますが、食べきれない分をあちらこちらに埋めておき、
後で食べるという習性(貯食性)を持っています。しかし、隠した果実や種子の場所を
忘れてしまうことも多く、この食べられなかった種子が分布を拡げることに貢献して
います。

 この忘れられた種子が植生の遷移に影響を与えることも報告されています。周囲
にミズナラの木が見られないのにも関わらず、アカマツ林の臨床にミズナラの芽生え
が見られることがありますが、これはカケスが貯食して忘れてしまったものであること
が報告されています。鳥の忘れ物が、マツの林をナラ類の林へと変えていく最初の
役割を果たしているのです。

 貯食散布の際の種子の距離とその成功率ですが、新潟県の海岸アカマツ林で
行われた調査では、げっ歯類によりコナラ、ミズナラ、アベマキ等の種子が
平均13m、最高43m運ばれて、運ばれた種子のうち9%が発芽したことが報告され
ています。鳥を利用した場合には、カケスとドングリの組合せで、移動距離が50m〜
5kmといった例が報告されており、鳥を利用するとげっ歯類よりも長い距離への
散布が可能となるようです。成功率は、貯蔵されたドングリの18%が雪が降るまで
に残ると報告されていますが、冬の間にネズミに利用されたり、雪解け後にカケスが
探しだして食べるため、その成功率はもう少し低くなるのではと考えられています。

 貯食散布がなければ発芽自体ができない植物も知られています。ハイマツや
チョウセンゴヨウといった無翼のマツ類では、有翼のマツ類のように成熟しても
球果が開かないため、種子がこぼれ落ちることがありません。また、翼を持たない
ので風を受けて運ばれること(「風散布」と言います)もできず、球果のできる位置が
低いため、運良く球果を落とすことができたとしても、長距離を移動することは難しい
と考えられています。そこで、発芽にホシガラスの力を借りています。ホシガラスは
球果を枝からもぎ取り、仕事場で球果を壊して種子を取り出し、種子を貯蔵所に
埋めます。さらに忘れてもらうことで、無翼のマツ類は初めて発芽が可能となるので
す。ホシガラスと無翼マツ類の組合せでは、キタキツネが埋めた種子を食べてしまう
ことなどが報告されていますが、貯蔵されたマツの種子の3個に2個はそのまま忘れ
られてしまうと言われています。

 被食動物散布が種のほとんどが生き残る手法であるのに対して、貯食散布は
食べられることを見込んで数を作る方法なので、種子を食べる動物が増えると
生き残ることができなくなってしまうのではないかと考えられます。しかし、樹木は、
「なり」と「不なり」を1年ごとに行う隔年結実という手法を用いることにより、種子を
食べる貯食者の個体数を制御し、作った種子が食べ尽くされてしまうことを防いで
います。

 道に散らばった数えきれないほどのドングリ、知らず知らずのうち服についている
オナモミなどの「ひっつきむし」、そして柿や葡萄といった甘い秋の果物。人間は、
それぞれに風情を感じ、ゆったりとした気分で秋を満喫していますが、植物は、この
季節を一年に一回の散布の機会として、慌ただしく次の年、次の世代への準備を
しています。植物にとって、秋は一足早い「師走」といったところでしょうか。

(参考文献)

中西弘樹 「種子はひろがる」 平凡社 東京 1994年

デービッド アッテンボロー 「植物の私生活」 山と渓谷社 東京 1998年

上田恵介 編著 「種子散布 助けあいの進化論1」 築地書館 東京 1999年

上田恵介 編著 「種子散布 助けあいの進化論2」 築地書館 東京 1999年

石井桃子 「『話の種』になる種子の話」 ごま書房 東京 2002年

稲垣栄洋 「身近な雑草のゆかいな生き方」 草思社 東京 2003年


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逆瀬川 三有生 (さかせがわ みゆっせ)

特定非営利活動法人 農学生命科学研究支援機構 理事 (博士農学)


Copyright (C) 2006 Miyusse SAKASEGAWA , Phyton-Cide Spread Center JAPAN

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