(連載2) 植物の不思議な世界 (1)

大平 辰朗



 植物は、一旦根を伸ばし、生育し始めると動物等のように外敵に攻撃を受けた場
合、逃げることができません。しかし、植物は実に巧みな術を使って、外敵の攻撃を
かわしていることが最近の研究によって解明されてきています。

 これらの機能の一つとしてアレロパシー(allelopathy、他感作用)という現象が知ら
れています。

 アレロパシーの語源は、ギリシャ語のallelon(互いに)とpathos(一方が他に障害を
与える)の合成語からきているといわれ、アレロパシーの定義は「ある植物(微生物
を含む)が生産した化学物質の環境への流出を通じて、他の植物に直接的あるいは
間接的に阻害的影響を与える現象」とされています。

 また、アレロパシー活性の発現の経路としては、植物の葉や根から直接物質を
発散する場合、葉や樹皮から雨等により溶出する場合、葉や樹皮が駆逐して土壌
中の微生物などにより分解され、それらが抑制物質として働く場合などが見出され
ています。

 身近な植物を例にとり、説明してみましょう。

 秋空の見られる十月ごろになると、河川敷、鉄道沿線、空き地などで、あたり一面、
黄色に染まったセイタカアワダチソウの大群落を見かけます。その群落の中や周辺
では他の植物が殆ど生育していません。これはこの植物の根で生産される物質が
原因であり、他の植物の生育を著しく抑制することが確認されています。

 木本性植物ではユーカリが有名です。柑橘系の香りのするレモンユーカリはその
葉から揮発性の化合物を発散して他の植物の生育を抑制することが知られ、他の
種類のユーカリからもアレロパシーが見出されています。

 その他クログルミも古くからアレロパシーが指摘され樹皮や葉などから溶出した
成分が、土壌に浸透した後、加水分解や酸化を受け、活性物質であるユグロンに
なり、阻害作用を発揮していると考えられています。

 シカの生活する公園として有名な奈良春日大社ではナギの木が純林を形成してい
ます。研究の結果、これもアレロパシーの一種であると考えられており、原因物質も
みつかっています。

 アカマツの下層には下草が生育しにくいことが、江戸時代に日本の学者により
発見されていました。韓国の研究グループにより、そのメカニズムの一部が解明
され、雨等により葉部から溶出する成分の中から抑制物質が見出されています。

 熱帯多雨林の中にも、アレロパシー活性を有する植物がみつかっています。
カメルーンにあるアジャップの木は、特にその現象が顕著であり、日本の研究
グループにより、その原因物質が見出されています。

 以上で紹介した例は、これまでに解明された例の一部にすぎません。

 最近の分析技術の進歩により、今後益々明らかにされることが増えると考えられ
ます。解明された機能をみると実に巧みであり、植物のもつ潜在能力の高さに驚か
されます。

 今後の研究の進展が非常に楽しみです。 


<<著者紹介>>


大平 辰朗 (おおひら たつろう)

農林水産省 林野庁 森林総合研究所 生物機能開発部 森林化学科

生物活性物質研究室 主任研究官


Copyright (C) 1999 Tatsurou OHIRA , Phyton-Cide Spread Center JAPAN

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