|
多くの高等植物には、タンニンと総称されるポリフェノール成分が含まれています。
タンニンとは「温水によって抽出されるポリフェノール化合物で、塩化第二鉄によって
青色を呈し、アルカロイド、ゼラチン及び他のタンパク質を沈殿させる化合物」と定義
されています。
タンニンは化学構造の違いから、大きく二つのグループ(縮合型タンニン及び加水
分解型タンニン)に分類されます。タンニンは古くから、皮なめし剤、植物染料、生薬
等として利用されてきました。また、最近の研究により、タンニンのホルムアルデヒド
吸着剤、ポリウレタン、重金属吸着材等の機能性材料としての用途が解明されてき
ています。
このように、タンニンは人間にとって利用価値の高い有用物質ですが、樹木自身に
とっても環境からの様々なストレスに対する生体防御という機能を果たしています。
ストレスの代表的なものとしては、ホ乳類や昆虫による摂食や病原菌による感染など
の生物的要因によるもの、及び紫外線、活性酸素、栄養欠乏等の非生物的要因に
よるものがあります。
オーク葉の昆虫による摂食は春に激しく、6月以降はほとんど摂食されません。
オーク葉の加水分解型タンニン量は一年を通じてほぼ一定ですが、縮合型タンニン
は6月以降に増加します。縮合型タンニンの生成によって葉の組織構造が密になる
ため、摂食が抑制されると考えられています。また、ワタの各系統における葉のタン
ニン含有量とダニ耐性についても同様の関係が認められ、タンニン含有量と耐性と
の間には正の相関が認められています。
ブナ葉を摂食するブナアオシャチホコの発生には周期性が認められています。ブナ
の葉を人工摘葉すると、翌年及び翌々年の葉中のタンニン含有量が増加します。
また、各々のブナ葉で飼育したブナアオシャチホコ幼虫の成長を比較すると、人工
摘葉後のタンニン含有量の高い葉を摂食した幼虫の成長は著しく抑制されることが
わかりました。即ち、ブナアオシャチホコの摂食を受けたブナはその刺激に応じて葉
にタンニンを蓄積し、その結果、ブナアオチャチホコの発生が減少するわけです。
このことからもタンニンが樹木の防御に関連している物質であることがわかります。
植物と昆虫の間には、食べられまいとする植物と食べようとする昆虫の間で激しい
攻防があります。植物はタンニン等の防御物質を葉中に蓄積して昆虫の消化酵素を
変性させ、栄養価を低下させようとしています。一方、イボタガのような昆虫は消化
液中にグリシンを分泌し、自らの消化酵素のタンニンによる変性を防ごうとしている
のです。
植物は草食動物にも摂食されます。春になるとタイワンリスやニホンザルによる
樹木の樹皮剥離が見られますが、これらの樹皮剥離の季節変動と含有成分(タン
ニン、糖成分、精油等)との関係についての研究も行われています。
タンニンは40〜320nmの紫外線を吸収する性質を示し、樹木細胞中のタンパク質
や核酸の紫外線による損傷を防ぐ作用も有しています。針葉樹の外樹皮は一般に
褐色または黒褐色ですが、これは外樹皮に含まれるタンニンが紫外線や酸素に
よって酸化されて高分化したものと考えられます。外樹皮中のタンニンは自らが酸化
されることによって樹体成分の変質を抑えているのです。
以上のように、タンニンは植物体内で極めて重要な役割を果たしていますが、その
防御機構の詳細については未知な部分も多く、今後の研究による解明が期待されて
います。
|