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植物から放出されるフィトンチッドは他の植物に影響をもたらすコミニュケーション
ツールとして知られていますが、植物体を燃やした時に発生する煙も同様の働きを
していることが知られています。
オーストラリアやアメリカ合衆国のカリフォルニア、南アフリカ共和国のフィンボスと
いった地域では、乾燥や落雷といった原因により、周期的に火災(野火)が発生しま
す。発生した野火は周囲の植生を焼き払い、一面は黒々とした焼け野原へと変わっ
てしまいます。しかし、野火が鎮火した後、焼け跡から、また新たに植物が芽生え、
土地を覆っていきます。
実は、野火が焼き払った後の土地は、今まで木の樹冠や背の高い植物に遮られて
いた太陽光がふんだんに射込むこと、燃えた植物の灰に由来するリンやカリウムと
いった栄養塩類が豊富に残されていることなど、植物が生長する上で、とても好まし
い環境にあります。そこで、植物達は争って、進出を試み、その結果、焼け跡はまた
緑に覆われて行くのです。
このような植生の回復の初期段階には、大きく分けて2種類の植物の種子が関与
しています。1つ目は、高い移動性を備えた種子で、他の場所で空中に散布され、
風に乗って焼き払われた土地に侵入し、芽生えます。このような種子は、風に乗り
やすいように、軽く、冠毛や綿毛といった構造を備えていることが特徴です。また
その移動距離は、一説によると何百キロもの距離に達するといわれています。
植生の回復の初期段階におけるもう一方の主役は、焼けた土地の土中に野火が
発生する前から存在していた埋土種子です。野火がおさまった後にしばらくすると
地中から盛んに発芽してきます。
埋土種子とは、発芽力を保持しているが、硬く水を通さない種皮や胚の成熟
度合い、内部に含まれている物質の阻害作用などにより、発芽が制限されている
状態(休眠)にある種子です。
種子の休眠は、それぞれの植物に固有な刺激を与えないと解除されず、種子が
発芽に適さない環境下で誤って発芽してしまわないようにする働きをしています。
種屋さんから買ってきて、いきなり播いても発芽しない種子があるのは、多くの場合、
種子が死んでしまっているからではなく、その種子が発芽に必要とする刺激が与え
られていないため、種子の休眠が解除されてないことが原因です。
種子の休眠を解除し、発芽を促す刺激としては、特定の波長の光、温度、乾燥、
機械的な刺激、時間、化学物質等が知られていますが、野火の後に発芽してくる
植物の種子には、火事で燃えてしまった植物から発生する燻煙が刺激として働いて
いることがわかってきました。
周期的に野火に襲われる地域の植物の種子は、普通に播いただけでは発芽率が
低く、ほとんど発芽しないのですが、その植物が生えている地域に生えている植物の
煙を水に吹き込んで作った溶液に一定時間漬けてから播いてやると、発芽率が著し
く上昇することが報告されています。また、周期的に野火に襲われる地域の土壌を
採ってきて、植物を燃やして発生させた燻煙を当ててやると、そこから発生する芽生
えの数は、何もしなかった場合に比べて著しく多くなったという実験結果も報告されて
います。
このような休眠種子の発芽を促す効果は、植物を燃やした時の燻煙だけでなく、
植物の構成成分であるセルロースや市販のペーパータオルの燻煙を用いたとき
にも、同様に発揮されます。そのため、植物が燃えていない時には絶対に出ないが、
植物を燃やした時には普遍的に出る物質を休眠を解除する刺激として用いている
のではないかと考えられています。
また、野火の後に発芽する植物以外でも、ハクサイ、レタスといった植物の種子で、
播く前に植物の燻煙を当ててやると発芽率が上昇することや、木から木炭を作る
炭焼き窯の周辺では他の場所に比べて草が多く生えることなども知られています。
しかし、その一方で、オーストラリア産の植物を燃やして発生させた燻煙が、同じ
オーストラリア産の植物の種子の発芽を促すものの、外来の植物の種子に対しては
発芽を抑制する現象も報告されており、どのような化合物がどのようなメカニズムで
働いているのかは、まだわかっていないのが現状です。
植物を燃やした時に発生する燻煙の研究は、従来、木炭を焼く際に一緒に得ら
れる木酢液など木材部分に由来したものが盛んに行われてきました。しかし、近年
では、徐々に葉や草本の地上部全体の燻煙といった非木材の材料に由来するもの
に対しても行われるようになってきています。
タイムやセージといったハーブの燻煙の中には、精油成分に多く含まれるテルペン
類や窒素化合物など、木材の燻煙にはほとんど含まれていない成分が含まれている
ことも報告されています。
さらに、実際の野火や山火事によって燃えてしまうのは、草本や木の葉、樹皮等が
ほとんどで、木の材部分にまで火が達するものは少数です。その点からも非木材
部分から発生する燻煙が、生態系の中で重要な役割を果たしていることが推察され
ます。
野火により退場して行く植物が地中で出番を待つ種子たちへ送るメッセージがどの
ような形で伝わっていくのか、今後の研究が期待されます。
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